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基本的に誰も得をしない文面

今年聴いた音楽:2026年3月

レコードを買った。西岡たかしの。『五つの赤い風船』という、フォークソングのグループにいた人だとは知ってたけど、フォークには疎いのでスルーしていた。

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でも、このレコードジャケット。水色と白の色合い。ポップな手書き文字とゴシック体のコントラスト。あらゐけいいちみたいな世界観でいいな、内容知らないけど持っておきたいな~となった2枚。レコードの盤面を見て、えっ、URC、と驚いた。

URC=アングラ・レコード・クラブといえば、1960年代後半、既存の商業ベースに乗せにくかった音源を配布するために作られた会員制の組織で、フォークソングを全国に広める役割を果たした。

1969年当時、西岡たかしは『五つの赤い風船』の一員としてURCからレコードを発表するかたわら、ソロ名義でこのシングル2枚を発表。『秘密結社○○教団(人類頭脳進化後退破滅破壊促進倶楽部)』といった音楽プロジェクトにも参加しレコードをつくっている。他にもURCでレコーディングディレクター、アート・ディレクターまで務めていたというので大活躍だ(上のシングル2枚も西岡自身がジャケットを手掛けたらしい)。

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URS-0006『いやなやつ - ボクを郵便で送りましょう』

URC第3回配布レコード(1969年6月)。「ちょっと眠たいな」と笑いながら歌う後ろで、車のクラクションや風切音が入っている『ボクを郵便で送りましょう』。なんとなく、レコードというよりボイスメッセージを聞いているような感じになる。

『退屈なうつり変り』は、詩を朗読したテープを遅回しした上にピアノや笛などの音がランダムに散りばめてある。周りで奇妙な現象が起き続けているのに、ギターだけは絶えず穏やかに鳴り続けている。その流れで『ポケットは空っぽ』に続く。歌というよりほとんど語り。過剰なエコーの中に歌声が埋没していくような終わり方が印象的だった。なんだろう。ずっと不思議だ。白昼夢?

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URS-0010『砂漠/森・ふくろう』

URC第5回配布レコード(1969年10月)。『森・ふくろう』は、過剰なエコーを施したギターと深い呼吸音が2分近く続く始まり方がすごい。

『砂漠』がすごかった。だんだん爆風が迫ってくるような音がプツリと切れて、ギターと歌が始まる。シンプルなメロディーと不安になる歌詞に、不規則に鳴る鉄琴の音。不気味なくらい美しい静けさを保った演奏。何も考えずに聴いていると、そのうち意識が「この世界とは違う世界へ行」ってしまうかもしれない。

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こうした録音への関心、再生装置を楽器のように使う実験精神は、翌年にアルバム『溶け出したガラス箱(吐痙唾舐汰伽藍沙箱)』での大げさなピッチの揺らぎ、演奏を強制カットしたあと次の音がゆっくり立ち上がる⋯⋯といった大胆な演出に活かされ、1971年には多重録音を駆使して楽器とソロとコーラスを一人で演奏・録音した楽曲(『そんなに愛が欲しいのなら』『気ままな暮し』⋯⋯五つの赤い風船『ソロアルバム』に収録)へつながったんだと思う。

ただ、『溶け出した~』は音響・編集技術を音楽にフィルターを掛ける要領(今の音楽なら珍しくない表現)で使っているし、『そんなに愛が~』は『HOSONO HOUSE』的宅録サウンドに親しみがある人なら、かなりとっつきやすい内容だと思う。

そう思うと、やっぱり、時間感覚を意図的に歪め、語りやおしゃべりに楽器の音を「衝突」させて作ったような4曲(曲?)は、突き抜け方がすごい。サイケデリックとか、フォークとかそうした枠組みで聴くのはもったいない気がする。多分。こういうレコードをまだワンコイン(送料別)で買えるんだ。いい時代だ。まだ。

 

1969年に会員限定でレコードを配布するところから始まったURCは、会員申込が殺到したため、その年のうちに一部タイトルの市販を開始。1970年からは市販レーベルに移行した。

今回の2枚のシングルは、どちらも活動初期の会員制時代につくられた。楽曲はもちろんジャケットに至るまで関わっていたアーティストの感覚が反映されているわけだから、レコードを買うというただの消費活動を超えた何かを受け取った気持ちになれる。当時会員になってこのレコードを手にした若者たちのワクワク感はいかほどだったろう。URC設立後、申込が殺到したのが少しわかる気がする。