ちょっと遠出をしまして、買い物をしましたよ。
何度も訪れる街って、どうしても「お気に入りの探訪コース」ができて、そこを巡るだけで満足してしまいがち。もっとこの街を知るために、今回はまだ入ったことのない店へ、コーヒーを飲みに行くことにしました。
初めての店は緊張するもんですが、今回は特にそう。いかにも昭和からやってます!といった具合の店構えだけど、ブラインドがかかっていて、外から中の様子が見えない。心配。心拍数が上がります。それでもドアは開いていたのでエイヤッと入ると、年配の女性がひとり。私に気づくと、すぐに席へ案内してくれました。
チャーミングな声のやさしい店主さん。少し丸くなった背中とは対照的に、コーヒーを運ぶ手つきはきびきびしています。買い物袋を見て「なにか良いお買い物できましたか?」と笑顔で聞いてくれたのですが、私は「ア~ッ、アワワアワワア〜……」と、言葉にならない音で返してしまいました。不審!失礼しました!
黒っぽいシェードの吊り下げ照明。使い込まれて風合いの出たテーブル。壁に飾られた写真やレコードジャケット。窓辺の観葉植物。かっこいい!すべてが絵になる!
開いているドアからふんわり抜ける風。流れてくるしっとりとしたジャズと、酸味が抑えられた、まろやかな味のコーヒー。なんて贅沢な時間!灰皿があるってことは、できるんだなあ、喫煙!今となっては新鮮、スゲー!
行きたいお店は行けるうちに行っておくって大事だなあ!という気持ちとともに、今月聴いたレコードについて書きます。
Milt Jackson And The Hip String Quartet
ヴィブラフォン奏者ミルト・ジャクソンの1968年作品。ジャズにおいて弦楽器(ストリングス)は「ゴージャスな雰囲気」作りのために利用される事が多いものです。しかし本作では、ストリングスが主役(ミルト・ジャクソン)と対等の存在感で迫り合うという点で、ほかのストリングスものとは一線を画しています。
8ビートの「The Morning After」は、リムショットがどこかラテン風味でおしゃれ!キリキリと鋭い弦楽器の音色が、リズムからわずかにズレつつ熱い音の塊となってグルーヴを作るんですね。そのモタつき、揺らぎ、重量感がクセになるんだなあ。
そんな熱気に満ちた空間へと爽快な風を送り込むのが、ミルト・ジャクソンのヴィブラフォンとジェームス・ムーディのフルート。ベテランふたりのプレイが、グルーヴをさらなる高みへと押し上げます。
どっしりと強力にリズムを保持するボブ・クランショウのベースと、流れるようにリズムを繰り出すミッキー・ローカーのドラムが好対照。
ファンキーな香りただよう「A Walkin' Thing」も素敵。クインシー・ジョーンズが「ソウルそのもの」*1と評したミルト・ジャクソンのソウルフルな演奏に、ストリングスが濃~い味付けを絡めていきます。ストリングスの重量感が、リズムの重心をぐっと引き下げる効果を生んでいるのかもしれません。
「ストリングスはゴージャスな雰囲気を⋯⋯」という固定観念が良い意味で裏切られます。むしろゴージャスでスパイシーで華やかな香りを放っているのは、シダー・ウォルトンのピアノやヒューバート・ロウズのフルートかも。ロン・カーターのベースもセクシー。高域から低域へ音色を持ち上げては落としてみたり(2:16~)、極端な音の強弱をつけてみたり(4:54~)⋯⋯そのテクニックはさりげないようでいて、演奏全体に鮮やかなコントラストを生み出しています。
ミルト・ジャクソンの自作曲「Bags And Strings」。今度はロックのリズム感覚を取り入れた8ビート。サクサク刻むハイハットと軽快なヴィブラフォンが跳ねるようなグルーヴを作り出しています。冒頭のドラムを聴くと、80~90年代に起こった「ジャズで踊る」クラブカルチャーを経験した人々の間でこのアルバムが評価されたのもわかる気がします。
ビジュアル面でもサウンドの面でも新しい時代の空気に自然体で向き合いつつ、ヴィブラフォンで活き活きと「ミルト・ジャクソン節」を鳴らしていく姿勢、かっこいいなあ。「新しい」かっこよさと、「変わらない」かっこよさが交わっているアルバムなんだなあ。水色のタートルネックも、ごっつい長ネックレスもイケてます。時代!
*1:『スイングジャーナル』15(2)66ページ「なめし皮のソウル――ミルト・ジャクソン」より (筆:相倉久人),スイングジャーナル社,1961-02. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2299976 (参照 2026-09-21)