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基本的に誰も得をしない文面

今年聴いた音楽:2026年8月

La Vergne Smith「La Vergne Smith」

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気分がさっぱりするアルバム。1956年作。水色の背景に白いドレスが映えますね。

ラヴァーン・スミスはニューオーリンズを拠点にピアノの弾き語りをしていた人。1曲目の「Blue Skies」から良い感じです。ブルース風味がこってり乗っかったバリトン・サックスと涼やかなヴィブラフォンの組み合わせ。旨味は濃いけど胸焼けしない、いい塩梅の演奏です。

「Out Of Nowhere」では、さらにミュート・トランペットが加わりグッとおしゃれな音に。ささやき、つぶやきレベルまで抑制されたトーンでサラッと歌うラヴァーン・スミスの歌いかたが雰囲気にピッタリ(ちなみに、他の曲ではほんとにささやき声が入っていますよ)。

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ニューオーリンズのジャズ(ディキシーランド・ジャズ)と言うと、陽気なリズムと大音量で圧倒される印象があるのですが、ここでは伴奏も穏やかなハスキーボイスに合わせているのでしょうか、ちょっと背伸びして(?)モダンにスウィングしています。それでも滲み出るいなたい感じがたまらなく良い味わいです。

木久扇師匠の「嫌〜んバカ〜ん」の元ネタでおなじみ、ディキシーランド・ジャズといえば!の名曲「St. Louis Blues」もあっさりと。あんまり落ち着きすぎるとただのお行儀の良いお歌になってしまうところ、時折ヒョイッと加えられるアクセントがクールなのです。なんとなく聞いているだけで気分がさっぱりしてきますね。

これはまさしく、夏の帰り道、ぐったりするような湿気と暑さのなか歩き続け、ようやくありついた冷たい一杯。その喉越し。肌のベタつきも忘れるような至福の清涼感。まさしく疲労に効きます。癒されますね。よくわからなかったら、いっかい疲れてから聴いてください。とりあえず肉体をサウナに放り込んでみましょうね。

疲れに効くという意味で思い出されるあのRuby Braffのアルバムのように『「はい!今日はおしまい!お疲れさん!」てな調子でスイッチを切ってくれる』ような即効性はないわけですが、アルバム一枚聴き終える頃にはこのまま寝ちゃおうかな~というくらいには夢見心地になれる、そんなリラックス成分がありますよ。

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これを書いているときの東北地方は、(ありがたいことに)夕方になればエアコンいらずの涼しさ。窓を開けて、しばらく横になって、風を感じながらこのレコードをかけたいですね。

 

Franco Cerri「Quartetto Franco Cerri Con I "Choristers"」

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上の文章を書いてから2週間近く経ちまして、きょう(2026/08/24)までのわが県は熱帯夜のボーダーラインスレスレをくぐり抜ける夜が続いています。気温でリンボーダンスをするな。

イタリアのジャズです。1960年作。EP。4曲入り!かわいいね!私は2009年に日本で復刻されたものを購入しました。オリジナル盤もほし〜ね。

フランコ・チェリのギターと、男声コーラスグループ「I Choristers」のスキャットをフィーチャーした一枚。スーツ姿のチェリ。似合いますね。シュッとしています。眼鏡男子ですね。いいですね。

「I Choristers」については詳細不明。ジャケットではシルエットしか見えません。肝心の音源ですが、なんと、デジタル配信されていません。わあ!ということで雰囲気だけでお楽しみください。

出だしからデュッデュブデュッデュッとご機嫌にスキャットする「Straike Up The Band」がお気に入り。「Honeysuckle Rose」も快適なスウィング感のいい演奏。こちらは比較的ギターがメインで、合間合間にコーラスが挟まる構成です。このコーラスがなかなか素敵で、「黄金の七人」といったイタリアの映画音楽を思い出すなどしました。

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「Gypsy」と「I Should Care」の2曲はロマンティックなバラード。どちらもChoristersのコーラスから始まり、チェリのギターへバトンタッチしてメロディーへ……という流れ。このコーラス、なんか似てるな〜と感じたのがブラジル音楽。まさかのボサノヴァ!複雑なハーモニーはアメリカのフォー・フレッシュメンの影響を感じさせつつ、彼らほどエンタメ!ショービズ!ハリウッド!的なド派手なにおいを感じさせない素朴なコーラスワークや、耳に残る裏声の存在感は、オス・カリオカスやタンバ・トリオなど、1960年代ブラジル音楽のそれに似ていて面白いなあと思いながら聴いていました。なんだろう、この不思議な似かた。

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今年聴いた音楽:2026年7月

こんにちは7月。梅雨らしい梅雨ですね。最近は除湿機を毎日動かしておりまして、毎回、ゴウゴウと階下に響く大音量をあげながらドえらい量の水を捕獲しています。1人分のコメなら余裕で炊けそうです。炊きませんが、引いています。この量が、大気中に、???

湿気はレコード保管の大敵。今日も除湿機のお世話になります。

Chris Connor『I Miss You So』

1956年録音。これまでCDで聴いていたアルバム。縁あってLPレコードを手にできました。

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ジャケット写真がいいね。ソール・ライターです。『Harper's BAZAAR』などのファッション・フォトグラファーとして活躍。1950年代のニューヨークを「この景色はこの写真のために存在するのでは?」と思うほど洗練された色彩感覚と大胆な構図で切り取った写真家。私のお気に入りの写真家です。

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このアルバムを買う決め手になったのは「Go 'Way from My Window」という曲が入っていること。米国のフォーク音楽復興の一翼を担ったジョン・ジェイコブ・ナイルズが16歳(!)で作曲したという歌です。

深い陰影を帯びたハスキーな歌声が、歌詞のやるせなさを余すことなく引き出しています。クリス・コナーの歌声は、一見淡々としていながら、湧き出る泉のような情感を秘めています。しとしと降る雨のように静かなギターの旋律と、歌声に加えられたかすかな残響。それらが湿度高めの私の部屋になじんでいきます。まさに梅雨時の音楽。

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こちらはジョン・ジェイコブ・ナイルズ本人が歌ったもの。彼が80代を迎えた頃の映像では、手製の楽器を水平に置いて、大きく口を開きつつ時折天を見上げ、裏声交じりに歌っていました。その姿はグロテスクという言葉が脳裏をよぎるくらい強烈で、アメリカ音楽の原初の姿を見せつけられたような感じがしたのでした。剥き出しの魂がぶつかってくるようなナイルズ版と比べると、ポピュラー音楽として聴くこともできる幅を持たせてきれいにまとめたアレンジの手腕がすごい。

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このアルバムは、ジャズというよりオーケストラやコーラス隊を従えて録音したロマンティックなバラードものが多い印象。ジャズボーカルとポピュラーものの垣根がまだまだ曖昧だった1950年代の雰囲気を感じることができます。

ゆえに、ガチのジャズマンたちを従えてのびのび歌う「They All Laughed」と、ビッグバンドがビシバシと炸裂する「Radar Blues」はちょっと異質でインパクトも抜群。あまりに毛色が違うので、先行シングルか何かだったのかな?と思ったけど、そうではないみたい。調べていたらむしろ「Go 'Way from My Window」のほうがシングル・カットされていたという事実にぶつかり驚くなど。

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Atlantic時代のクリス・コナーは、本作発表と同じ年にガーシュイン作品集を発表。以後、よりジャズ色の濃い作品を重ねていくことを思えば、本作はジャズ歌手という枠を少し離れ、ポピュラー・ファンにも届く方向性を示した、キャリアの節目にあたる一枚だったのかもしれません。少々深読みかもしれませんが。

今年聴いた音楽:2026年6月

Bengt Hallberg『Bengt Hallberg』

スウェーデンで録音されたジャズレコード。私が手にしたのは1957年製のアメリカ盤。新聞紙を使ったちぎり絵で北欧の町並みを表現したジャケット。素敵!

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中立国だったスウェーデンは第二次大戦中もジャズを演奏できたことから、戦後はアメリカ以外では数少ないジャズの先進国に成長。とくに1940年代に起こったクール・ジャズ(ときに抑制的な姿勢を伴い、高度な編曲術による調和のとれた合奏を強く打ち出したスタイル)に敏感に反応。本場アメリカのミュージシャンと互角に渡り合えるミュージシャンを輩出しました。

1950年代に入る頃にはアメリカのレコード会社もスウェーデン録音のジャズ音源を次々買い付けたり、お抱えミュージシャンをスウェーデンで録音させる企画を立てたり、ついにはスウェーデン民謡がジャズの定番曲のレパートリーに入るまでになったのですから(「Ack Värmeland, du sköna=Dear Old Stockholm」)、1940年代後半から1950年代前半にかけて、ジャズ史にはスウェーデンの時代があった、と言っていいと思うのです。

作品の主役であるBengt Hallbergは1940年代から活動するスウェーデン人のピアニスト。1950年にはアメリカでトップクラスの人気を誇ったサックス奏者のスタン・ゲッツと共演したことでその名を知られるようになりました。

あくまでメロディーに忠実に。弾きすぎず。この人のピアノは優しいトーンで品よくスウィングします。「Where or when」は、どことなくギターとヴィブラフォンが抜けたジョージ・シアリング楽団の演奏を聞いているような気持ちに。

ピアノ・ソロ「Little Man You've Had A Busy Day」は、細切れにしたメロディーに次々と複雑な和音をあてがっていくアート・テイタム的テクニックが印象的。音色の優雅さが失われないのはすごい。

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「Frantic Blues」では右手を素早く動かしながら、左手を鍵盤の低域に叩きつけて、リズムに勢いをつけています。弦楽器というより打楽器のようなピアノの使い方。バド・パウエル的です。

⋯⋯と、なんとなくモダン・ジャズピアノのショーケースみたいな演奏が並びます。一方で、こうした先人たちのテクニックを取り入れつつも、決してやりすぎないところが印象的。出すぎない、という個性。「I'm Coming Virginia」などは、快適なスウィング感が続くのでどうしても派手にやりたくなるようなところをスッキリと収めています。クール・ジャズのお手本のような抑制のきいた演奏。

実はこのレコード、オランダでも製造されていて、こちらのほうが有名。

閉店後、お客がひけたあとのダンスホールのような空間でピアノを弾くBengt Hallbergの後ろで、モップを持った掃除夫のおばさんが立ったままその様子を見つめている。そんなジャケットが素敵。

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アルバムのラストを飾る「So Long Blues」が、まさにその雰囲気を音で表しているようで、初めて聴いたときは嬉しくて嬉しくて。

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ジャケットと中身の雰囲気がこんなに合致しているアルバムなんてめったに無い!という興奮から、このアルバムの存在は「死ぬまでに手に入れておきたいLPリスト」に直行したものの、やはりこのオランダ盤はあまりにジャケットが素敵すぎるが故か、滅多に巡り会えない。し、アメリカ盤よりも良いお値段してしまうんですね。

持ってる人、すごい。

今年聴いた音楽:2026年5月

インスタントコーヒーと和睦できたかもしれない。子供の頃はインスタントコーヒーが焦げたお湯にしか感じられなくて、すっかり敬遠していたのだけれど。

喫茶店のコーヒーはブラックコーヒーでも美味しいのに、インスタントコーヒーはただ苦いばかりで飲めないのがずっと不思議だった。この違い、最近になってやっと、あれは豆の品種の違いだったのでは?と気づくことができた。

コーヒー屋さんに入ったとき、店主のお兄さんが「きょうはロブスタの焙煎に挑戦してるんです」と、いかにも勝手が違うといった様子で話していたのがきっかけ。

アラビカ種の豆は、風味が豊かなかわりに気候の変化に敏感で育てるのが難しい。一方でロブスタ種の豆は、苦みが強い代わりに気候の変化に強く、比較的育てやすい。ゆえに缶コーヒーやインスタントコーヒーのような大量生産品に多く使用される……と。

「そういう味の豆を使ってるんだ」と分かると、途端に「そういう味」として受け入れることができるようになった。ははあ。自分にとって美味しいものが増えたのは、まあ、良かったね(?)

Rune Öfwerman Trio「Old Spice」

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1967年頃?にスウェーデンのSonetから発売されたLP。

1950年代後半から1960年代前半にかけて、スウェーデンの「Gazell」レーベルに残されたRune Öfwermaトリオの音源を選集したLP盤。

Gunnar Lundén-Welden率いるコーラス隊と共演したものが楽しかった。このときの音源は、4曲が先にEP形式で発売されていて(Gazell GEP-45)、そのライナーノートによれば、「コペンハーゲンで、トランペッターのErnest Englundが合唱隊と録音するんで、君のトリオもついでに録音するかい?」というプロデューサーの思いつきから始まったらしい。すぐにベーシストとドラマーを捕まえて、「たまたま近くにいた」作曲家/演奏家のGunnar Lundén-Weldenを合唱の編曲者に迎え、勢いそのままコペンハーゲンに乗り込んで録ったというので、演奏の息の合いようにはただただ驚き。

コペンハーゲンではトランペッターのアラン・ボッチンスキーとサクソフォニストのロルフ・ビルバーグが合流。ドナルド・バード作曲の「Amen」が録音された。ゴスペル/黒人霊歌の持つフィーリングを反映させた「ファンキー・ジャズ」ド真ん中の快演。Rune作曲の「Gospel Walk」も同様のフィーリングを活かした演奏。冒頭コーラスが聖歌を強くイメージさせる。

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このLP、なんと言ってもドラムがいい。ドラマーのNils-Bertil Dahlanderは、フランスではチェット・ベイカーと共演し、この録音に参加する前はニューヨークでテディ・ウィルソンのトリオに加わっていた実力派。全編にわたって気持ちよく跳ねていて、耳を傾けているだけで自然と体がスウィングしてくる。「Helen's Theme」や「Watcha Gonna Do」のようなゆったりしたテンポの曲では、聴き手の意識が自然とピアノとコーラスに向かう、さりげないアプローチ。聴かせる人だ。

LPには、アメリカンよりアメリカンなサウンドのファンキー・ジャズのほかに、「Satmaras Polska」や、スウェーデンに伝わる民謡「Lapp-Nils Polska」のような、北欧を感じさせる演奏も挟まれている。鍵盤の低音を使った重たいピアノの音とコーラスの組み合わせは、楽曲の旋律と相まってミステリアスな雰囲気。

このコーラス隊との音源は、1965年に米Argoから出た『Cool』というLPでも楽しめる。2000年代に日本でCD化が検討された時期もあったが実現はしていない*1。唯一「Watcha Gonna Do」だけが橋本徹監修のコンピレーションCD『Café Après-midi Rouge』に収められている。

近況:たぶん手首か肘を痛めました。心当たりはあるけど、しかし恥ずかしい。スマホの持ちすぎで痛めたんでないか。いやどうも、恥ずかしい。

今年聴いた音楽:2026年4月

桜の季節ですね。みなさんご機嫌いかがですか。当地の桜は、満開を迎えてから風の強い日が続き、あっという間に散ってしまいましたよ。儚いですね。

で、レコードを買いました。

Núria Feliu「Núria Feliu, Tete Montoliu, Booker Ervin」

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以前ネットオークションで見かけたときは、落札額が2万円近くしていたので、すっかり諦めていたもの。手に入るとは夢にも思わなかった一枚。

実店舗があるレコード屋さんの、インテルネッツ通販で買いましたので、お店で売ってたときの値札がついてきたのですが、エッこの値段で売ってたものを私がこの値段で買っていいんですか!?となりました。お買い物には夢があります。

歌手のヌリア・ファリウ(Núria Feliu、ヌリア・フェリウとも)が、バルセロナを含むカタルーニャ州を中心に使われるカタルーニャ語という言語でジャズの定番曲をカバーしたアルバム。しかも、テナーサックスでブッカー・アーヴィンがはるばる米国から参加しています。

アルバムのプロデューサーを務めたAlbert Mallofréが書いた作品解説によれば、実は、このアルバムの制作が始まった当初、ブッカー・アーヴィンの参加は予定されていませんでした。

1965年11月当時、ブッカー・アーヴィンはマドリードのジャズクラブ「Whiskey Jazz」に出演していたのですが、クラブのオーナーであるジャン=ピエール・ブルボン(おいしそうな名前だ)の厚意によって、彼を一日だけバルセロナへ招くことができたのだそう。彼はバルセロナへ着くやいなやヌリア・ファリウが何者かさえよく知らないまま録音を始めたわけですが、すごい。とにかくすごい。

冒頭を飾る「El Pais Del Ocells(バードランドの子守唄)」では、テテ・モントリューのキレの良いピアノとずっしりしたEric Peterのベースがすてき。ヌリア・ファリウの厚みのある歌声のあとにブッカー・アーヴィンのテナーソロが来るわけですが、ぶっといテナーが怒涛の勢いで押し寄せます。触発されてバックのピアノやドラムも一層覇気を増しているように感じます。ソロが明けたらテーマをもう一度歌ってスパっと終わる潔さも好き。2分半という短い時間のなかにはちきれんばかりのエナジーがこもっている演奏。

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歯切れのよいテンポのなかにこれでもかと音を細切れにして詰め込みまくるブッカー・アーヴィンのソロが楽しい「Just Friends」、逆に音の余白をたっぷり活かしたテテ・モントリューのピアノが輝いている「Yesterdays」と、歌なしの演奏も聴きどころが多くて素敵。

中でもお気に入りは「Schoochee Coochee」。アルバム中最速のテンポにテナーのぶっとい音色が乗って駆け抜けていく気持ちよさはちょっと言葉にできません。聴いてくれー!

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「El Blues D'en Booker(ブッカーのブルース)」は、レコードの再生時間の都合上、最後の1曲は3分以内の演奏で!という制作側の都合に対し、テテ・モントリューが「なら完全即興でやろう」と提案して生まれたもの。なんとピアノレス。ベースとドラムが醸し出す異様な緊張感がクセになってきます。

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歌が入っていない「Yesterdays」「Just Friends」「Schoochee Coochee」「El Blues D'En Booker」については、ブッカー・アーヴィンがスタジオに入ってから何をやるか決めたといいますから、その演奏の出来栄えの良さには驚かされます。

アルバムの最後を飾る「Soc L'Estrella(Fine And Dandy)」は、イントロのピアノから一同ノリノリであることが伝わってくる演奏。リムショットが気持ちよくリズムを作っていきます。一日限りのセッションでありながら、全員の心が通じ合いアルバムを完成させたことを祝う、ウィニングランのような清々しさを残して終わります。

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なお、「Tot es gris(Misty)」「Soc Com Un Desmai(Willow Weep For Me)」「De Dalt Estant(Lover Man)」の3曲は、もともとブッカー・アーヴィンの参加が決まる前に制作が進んでいたため、トリオ+歌の編成になっています。

今年聴いた音楽:2026年3月

レコードを買った。西岡たかしの。『五つの赤い風船』という、フォークソングのグループにいた人だとは知ってたけど、フォークには疎いのでスルーしていた。

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でも、このレコードジャケット。水色と白の色合い。ポップな手書き文字とゴシック体のコントラスト。あらゐけいいちみたいな世界観でいいな、内容知らないけど持っておきたいな~となった2枚。レコードの盤面を見て、えっ、URC、と驚いた。

URC=アングラ・レコード・クラブといえば、1960年代後半、既存の商業ベースに乗せにくかった音源を配布するために作られた会員制の組織で、フォークソングを全国に広める役割を果たした。

1969年当時、西岡たかしは『五つの赤い風船』の一員としてURCからレコードを発表するかたわら、ソロ名義でこのシングル2枚を発表。『秘密結社○○教団(人類頭脳進化後退破滅破壊促進倶楽部)』といった音楽プロジェクトにも参加しレコードをつくっている。他にもURCでレコーディングディレクター、アート・ディレクターまで務めていたというので大活躍だ(上のシングル2枚も西岡自身がジャケットを手掛けたらしい)。

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URS-0006『いやなやつ - ボクを郵便で送りましょう』

URC第3回配布レコード(1969年6月)。「ちょっと眠たいな」と笑いながら歌う後ろで、車のクラクションや風切音が入っている『ボクを郵便で送りましょう』。なんとなく、レコードというよりボイスメッセージを聞いているような感じになる。

『退屈なうつり変り』は、詩を朗読したテープを遅回しした上にピアノや笛などの音がランダムに散りばめてある。周りで奇妙な現象が起き続けているのに、ギターだけは絶えず穏やかに鳴り続けている。その流れで『ポケットは空っぽ』に続く。歌というよりほとんど語り。過剰なエコーの中に歌声が埋没していくような終わり方が印象的だった。なんだろう。ずっと不思議だ。白昼夢?

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URS-0010『砂漠/森・ふくろう』

URC第5回配布レコード(1969年10月)。『森・ふくろう』は、過剰なエコーを施したギターと深い呼吸音が2分近く続く始まり方がすごい。

『砂漠』がすごかった。だんだん爆風が迫ってくるような音がプツリと切れて、ギターと歌が始まる。シンプルなメロディーと不安になる歌詞に、不規則に鳴る鉄琴の音。不気味なくらい美しい静けさを保った演奏。何も考えずに聴いていると、そのうち意識が「この世界とは違う世界へ行」ってしまうかもしれない。

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こうした録音への関心、再生装置を楽器のように使う実験精神は、翌年にアルバム『溶け出したガラス箱(吐痙唾舐汰伽藍沙箱)』での大げさなピッチの揺らぎ、演奏を強制カットしたあと次の音がゆっくり立ち上がる⋯⋯といった大胆な演出に活かされ、1971年には多重録音を駆使して楽器とソロとコーラスを一人で演奏・録音した楽曲(『そんなに愛が欲しいのなら』『気ままな暮し』⋯⋯五つの赤い風船『ソロアルバム』に収録)へつながったんだと思う。

ただ、『溶け出した~』は音響・編集技術を音楽にフィルターを掛ける要領(今の音楽なら珍しくない表現)で使っているし、『そんなに愛が~』は『HOSONO HOUSE』的宅録サウンドに親しみがある人なら、かなりとっつきやすい内容だと思う。

そう思うと、やっぱり、時間感覚を意図的に歪め、語りやおしゃべりに楽器の音を「衝突」させて作ったような4曲(曲?)は、突き抜け方がすごい。サイケデリックとか、フォークとかそうした枠組みで聴くのはもったいない気がする。多分。こういうレコードをまだワンコイン(送料別)で買えるんだ。いい時代だ。まだ。

 

1969年に会員限定でレコードを配布するところから始まったURCは、会員申込が殺到したため、その年のうちに一部タイトルの市販を開始。1970年からは市販レーベルに移行した。

今回の2枚のシングルは、どちらも活動初期の会員制時代につくられた。楽曲はもちろんジャケットに至るまで関わっていたアーティストの感覚が反映されているわけだから、レコードを買うというただの消費活動を超えた何かを受け取った気持ちになれる。当時会員になってこのレコードを手にした若者たちのワクワク感はいかほどだったろう。URC設立後、申込が殺到したのが少しわかる気がする。

今年聴いた音楽:2026年2月

こんにちは2月。さようなら2月。来たと思ったらもう終わっていた2月。

皆さん、いかがお過ごしですか?私はといえば、値上げする前にマクドナルドに駆け込み、ありふれた物を頼んだあとで「このあと値上げするならビッグマックとか行っときゃよかったな」なんてしょっぱい考えごとをしたひと月でした。

我ながら、もうちょっと、こう、ないんか?

レコードは色々買いました。楽しいものから、わからないものまで。色々!

Lynn Cornell「Moanin'」

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英国のひとが歌っています。シングル盤でだけ出た一枚です。渋い。しかもこの曲はシングルのB面なんですよ。さらに渋い。

良いですよ。出だしがスキャットですもの。良いに決まってる。

レコードに針を落とし、しばしの静寂ののち浮かび上がる、ミステリアスなスキャット。闇に立ちのぼるたばこの煙のような声。ドラマの始まりですよこれは。

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歌とピアノの掛け合いという静かな立ち上がり。スモーキーなサックスとドラムのブラッシングがこれまたほの暗く危険なかっこよさ。曲の中盤にサックスと歌が絡むところがあるわけですが、こんなに静かで、しっかりホットなクライマックスがあっていいんでしょうか。いいんですね。たまりませんね。

そんな調子でウキウキしているとあっという間に終わってしまうのです。寂しい!でもこのくらい短いほうが潔くていいのかも。これがシングルサイズ。

ところで、リン・コーネルは、「ヴァーノン・ガールズ(The Vernon Girls)」というコーラスグループの一員としてキャリアをスタート。このグループ、「ヴァーノンズ・プールズ」(Vernon's Pools)という、サッカーの試合結果で賭け事をする会社の社内活動の一環で生まれたものらしい。さすがイギリス。

1960年にソロ活動を開始、その年に映画「日曜はダメよ(Never on Sunday)」の主題歌をカバーしたシングルがヒットしたのだそう。70年代にはThe Pearlsというボーカルデュオを結成し、そこでもなかなかのシングルヒットを飛ばしたようですよ。

 

Archie Shepp「Day Dream」

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これまで、アーチー・シェップは「Attica Blues」を知っているだけで、どことなく私にとって縁遠い存在でした。たまたまYouTubeで見た海外ニキが「Masterpiece」だと語った曲『Blasé』が不思議としっくりきたのをきっかけに、彼の音楽を聴いてみようと思い立ったのでした。

そこで手に取った一枚がこのLP。いわゆるジャズのスタンダード(定番曲)をやってるアルバムです。日本のレコード会社が企画したアルバムで、2026年2月現在、このアルバムは日本でしか出ていないようです。

一曲目の『Don't You Know I Care』がすごかった!ソプラノサックス。極楽につながる蜘蛛の糸のように細く、天使の羽のように舞い上がる。悶えながら絞り出した人間臭い音も、やがてまろやかに空気中に溶けていく。全身全霊でコントロールされた音色が、天にも昇るような心地よい時間へ誘ってくれます。この一曲だけでもレコード買ってよかった!と思えたほど素晴らしい演奏。

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続く『Caravan』は一筋縄ではいきません。切れ切れなサウンド。原曲のメロディーを分解し、音楽として成立するギリギリのタイミングに音の断片を配置したような調子でテーマを演奏すると、そのまま猛烈な音数のソロになだれ込みます。

ここまで約1分。音のジェットコースター。ひねり、ねじれ、自らがかき回した時空の渦を突っ切っていくようなソロ。ここまできたらあとは何が起きたかわからないままひたすら圧倒される時間。怒涛!

『Satin Doll』は、クラッシュしたF1カー並みの勢いでピアノへ突っ込んでいくサックスに驚くものの、その後は原曲のメロディーを意外と(?)崩さずジェントルな展開に。ソロでは激しく縱横に駆けまわりつつ、リズムに合わせて体が揺れる=スウィングする感覚は温存されているのが面白い演奏です。

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その流れで?BYGレーベルのLPを、フランス盤と日本盤(東宝芸音)それぞれ手にする機会を得ました。貴重(当社比)。
フランス盤は小さいんですね。30cmないんでないかしら。ザラっとした、造りから受ける印象そのままのラフな響きは、激しい演奏をよりホットに聴かせてくれます。演奏の熱気がそのまま盤に焼き付いたような音というか。音楽というより「事件の記録」に立ち会っているような感覚になります。ただ、ジリつくようなバックグラウンドノイズがあるのは保存状態の問題だけではなさそう?
対して東宝芸音の日本盤はノイズが少ないのはもちろん、音が滑らか。元々はこんなに丁寧に録音されていたのね、とうっとりしながら聴きました。
でもやっぱりフリージャズは、私にはいまだ難しく、わからないこともある領域だなあ、という感想。まだまだわからないことがたくさんだ!