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基本的に誰も得をしない文面

2023年のわたくしと音楽

この記事はねむだる豆腐音楽会 12月7日分の記事です。

 

こんにちは、ノレです。
2023年、皆さんはどのような一年を過ごされましたか。
私はというと、ある日の就寝前、眠気と食欲に同時に襲われ、葛藤の末「夜食のカップうどんを布団の傍らに置いて就寝」したところ「夜食を抱いて寝る」というワードを盛り込んだ歌詞をAIに作詞されてしまった。そんな2023年でした。

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そんな私が、夜食のうどん以上に印象に残った作品をいくつかここに書き留めておくことにします。

音楽の知見を広げてくれたレコード

日本人の作曲家たちが主に1980年から1990年にかけて発表したアンビエント・ミュージック(環境音楽)を集めたアルバムが第62回グラミー賞の最優秀ヒストリカル・アルバム賞にノミネートされたのは2019年のこと。

アンビエント・ミュージック……ときに生活音や自然音を楽曲に取り込み、リズムやメロディが主張せず、空気のように存在し、生活に溶け込むような音楽。

2019年の私は「そんなの楽しいの?」と考えていましたが、今年に入りいくつかのアルバムを聴き、良いかも……と思うようになったのでした。

 

Joana Queiroz「Tempo Sem Tempo」

ブラジルのクラリネット奏者、ジョアナ・ケイロス(Joana Queiroz)が2020年に発表したアルバム。

鳴っている楽器の多くはジョアナ自身の演奏だそう。いくつも重なり合う音は、人間の呼吸を通して鳴っていることを強く意識させます。

音楽を通じて「生命そのものに触れている」ような感覚は、どことなく宮崎駿が描く自然や動物から感じる生々しさや畏敬の念にも近いものがあります。伝わるのかこれは。伝われ。

多重録音を駆使して作り出された、ゆったりと寄せては返す、深呼吸のような音楽。

銀河を思わせるジャケットに違わぬ神秘的な世界がここにはあります。

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Nala Sinephro「Space 1​.​8」

2021年に、カリブ系ベルギー人のミュージシャンがリリースしたアンビエント・ジャズのアルバム。
途中で虫の鳴き声などの環境音を取り込みつつ、メロディやリズムが絶えず変化し続けるサウンドが印象的な作品。

変幻自在なドラムやサックス、シンセサイザーの音色がとにかく気持ち良かった。

決まった形を持たない音楽の楽しさ。変化し続ける音に身を委ねて、このまま時間感覚を無くしてしまっても良いとすら思えてきます。

ジャズとアンビエント、音楽と自然音の間を自由に行き来する心地よさを味わえるアルバムです。

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Unknown Me「Bishintai (美心体)」

2021年の作品。必要最低限のリズムに乗って短いフレーズが延々と繰り返され、そこにぼんやりとした音色が重なる構図の楽曲が続きます。

80年代の音楽を思い出させるシンセサイザーの音色はどこか暖かく、音と音の心地よい余白に安心感さえ抱きました。

必要最小限の音と、そこに込められたシンプルなメッセージ。

音が鳴り、重なり、リズムが生まれることはとても楽しいことだ、という自分の中の原始的な感覚に気づけるアルバム。

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今年再発売された名作たち

今年は、山下達郎のアルバム8作品の復刻をはじめ、5月には細野晴臣の名作「Hosono House」が復刻、7月にはシティポップ・ブームを受けて再評価が進む杏里のアルバム4作品が復刻されるなど、レコード復刻のビッグニュースが尽きなかった年。

他にも「えっ!これも復刻するの!?」と言いたくなる(実際言った)作品が復刻されました。

Carlos Walker「A Frauta De Pã」

(RCA: SICP 6522)

音域は4オクターブ。占星術に長け、「ボサノヴァを創った男」ジョアン・ジルベルトと共同生活をした経験を持つという人物、カルロス・ワァルケル。

1974年に発売したシングル「Alfazema」がチャート1位を獲得。その流れに乗って、1975年に発売されたのが、このファーストアルバム「A Frauta De Pã」でした。

しかし、このアルバムは高い完成度を誇りながら、海外はおろかブラジル本国でも再発売されることなく月日が流れました。

アルバムに収録されている曲のうち、音楽配信サービスで聴けたのは「Via Láctea」という一曲だけ。

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幻想的な音響処理が施されたオーケストラの響きの美しさに加え、何よりもそのミステリアスなウイスパーボイスによって、ブラジル音楽ファンのみならずプログレッシブ・ロック界隈などからもカルト的注目を集めることに。

アルバムは「幻の名盤」と化し、2022年の9月には遂に6000レアル、つまり(2023年12月6日のレートだと)18万円近い価格で売買されるまでに至りました。

並のレコードマニアには手が届かない領域に達してしまった作品。発売から48年が経った2023年、ようやく、その復刻が世界で初めて日本で実現しました。

アナウンスを知った当時の私はMisskey上で興奮しきりです。財布が終わったそうですが、この人はいつだってそうです。

Carlos Walker本人にも復刻されたアルバムが届いたようです。(以下Facebookの投稿)

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笑顔が素敵。

復刻を監修した小山雅徳さんへのインタビュー記事では、復刻までの裏話を知ることが出来ます。復刻マニアには嬉しい記事です。そんな人いるのか?と思われそうですが、私がいます。よろしくお願いします。

特に好きな1曲:O Cavaleiro E Os Moinhos

「O Cavaleiro E Os Moinhos」は困難に立ち向かう勇気を歌った曲で、様々なアーティストによってカバーされています。

歌手によっては力強く、あるいは熱っぽい表現で歌われる曲ですが、ここでは儚げな歌声を意識してか、繊細なアレンジが施されています。

ラヴェルの「ボレロ」を思わせるスネアドラムの音で始まり、パーカッションが途中から加わってラテンのリズムに変化します。

しかし、音色は一貫してひんやりと冷たい印象を与え、淡い笑みを浮かべたような歌声との間に美しい緊張感を生み出しています。

バーブ(残響)を活用した透明感のある音が印象的。

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本作の制作陣の中で特に目を引くのは、ブラジルを代表する音楽家であるハダメス・ジナタリが楽曲のアレンジを手掛けていること。

ボサノヴァのファンなら、彼がアントニオ・カルロス・ジョビンを見いだした逸話はあまりにも有名。豪華な布陣によるデビュー・アルバムです。

今回の復刻はCDだったけど、いつかレコードで聴ける日が来るといいな。

 

Stan Tracey「Jazz Suite Inspired By Dylan Thomas' Under Milk Wood」

(Resteamed: RSJLP001)

ロンドン生まれのスタン・トレイシーは、セロニアス・モンクデューク・エリントンからの影響を感じさせるスタイルを持ったピアニスト。

不思議の国のアリス」などの英国文学から着想を得た作品は、今日でも高く評価されています。特に、ディラン・トマスのラジオ劇に着想を得たアルバム「Jazz Suite Inspired By Dylan Thomas' Under Milk Wood」は、英国ジャズ史上最高のアルバムとも評されます。

米国ジャズの模倣ではない「英国のジャズ」というアイデンティティを確立するために大きく貢献した、歴史的な作品と言えるでしょう。

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1965年にイギリスの大手レコード会社からリリースされたこの作品は、高い評価を受けたにも関わらず、1970年代にレコード会社の一方的な判断によって廃盤にされました。

スタン・トレイシーは、1976年に自主レーベルからこの作品を再発売。その後、CDでも何度か再発売され、ことし久々にレコード化されました。息子のクラーク・トレイシーいわく、作品がレコードで発売されたのは1976年以来のことだそう。

特に好きな1曲:Starless and Bible Black

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ガーディアンが「史上最高のジャズ・パフォーマンスのひとつ」と評したように、このアルバムの評価を決定づけた一曲と言っても過言ではないでしょう。
ピアノ、サックス、ドラム、ベース。それぞれの静かで、思慮深い演奏が重なりあい、美しい音のさざなみになって心に押し寄せます。

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ちなみに、前述のクラーク・トレイシーはドラマー。自身のクインテットを率いて録音した音源がめちゃくちゃかっこいい。

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おわりに

ここまで、2023年に聴いた音楽の中でも印象的だったものを書きました。

印象的だった曲はもっと沢山あるのですが、一曲ずつ書くと膨大な量になるため、「今年紹介することに意義を感じる」作品で、かつ「アルバムごと好き!」な作品に絞ることで、なんとか記事にまとめられるボリュームになりました。がんばった。

うまく文章化できなかったり、上記のテーマから外れてしまったために記事から外した作品もあるので、それらもいつか出せたらいいな。

最後に、ねむだる豆腐さん、素晴らしい企画を立ち上げてくださり、ありがとうございました。また、音楽紹介を楽しみにしてくださった皆さんにもお礼を申し上げます。

皆さまどうぞ素敵なクリスマスをお過ごしください。2024年もよろしくお願いします。

 

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