連日の猛暑で、七夕を過ぎた頃には心の中ではもう7月が終わってしまった。長い長い8月を生きた気分だった。暦の上ではまだ8月は来ていない。おかしい。もう紅葉を楽しみにしている自分がいるのに、まだまだくぐり抜けなくてはならない酷暑があるらしい。絶対におかしい。
それでも音楽を聴いた。お気に入りの曲もできた。書くぞー。
Lourenço Baêta「Lourenço Baêta」
ブラジルの男声コーラスグループ、ボカ・リヴリ(Boca Livre)のメンバーによるソロアルバム。フォークの香りを纏った良質なMPB(ブラジル産ポップス)。
切なさと心地よさが絶妙に交錯する歌とストリングスの淡いコントラストが魅力。昼下がりの陽の光を思わせる淡いジャケットの色も、アルバム全体の印象を鮮やかに表現しているように感じます。
ピアノ、ストリングス、歌が密やかに絡み合い、中盤からエレクトリック・ピアノが華麗に登場する「Luz E Sombra」、終わった愛の苦しみに悶える「Meio Termo」など、このアルバムは「光と影」が印象的に登場。
おぼろげに現れては消えるストリングスは、空の切れ間から差す光のよう。リズムをあまり強調しないサウンドは、強いインパクトこそないものの、心の隙間を通り抜け、深い余韻を残して消えてゆくような繊細さを持ち合わせています。
サックスはヴィトル・アシス・ブラジル、ベースはタンバ・トリオのベベート、ピアノはアントニオ・アドルフォ、アレンジはドリ・カイミと、錚々たる面々がバックアップ。彼らの名前にピンときた方は、ぜひ。
ただしサブスクにはないため、1979年に発売されたLPを手に入れるしかなさそう。
Miguel Marôco「A Eternidade」
Miguel Marôcoのことは、2021年のFestival da Canção(欧州規模の歌合戦みたいな番組のポルトガル予選)に参加していて知った。
同年に出たアルバムはキャッチーな曲が揃っていて、MVはちょっとシュール。
上の2曲を2022年にめちゃめちゃ聴いた記憶があるが、歌詞の内容を気にしていなかったので、なんかポップで、爽やかで、良いな~くらいの気持ちだった。
2023年、繊細な「A Sorte」と力強い「Homem Bomba」の2曲が配信された。静と動の対照的な楽曲だが、どちらも人間という存在の不安定さを感じる曲だった。この2曲を含むアルバム「A Eternidade」は、11月に配信された。
ストリングスとピアノと歌が中心の編成。転調を繰り返す複雑な進行。歌詞からは人生の無力感が伝わってくる。なのに爽やか。爽やかさがほとばしっている。肩の力が抜けていて、それでいて不思議なエネルギーのある曲が揃っている。
だんだんキリンジの音楽を初めて聴いたときの気持ちが蘇ってくる。一曲一曲に寓話的ストーリーがあり、ある種の「聴く文学」としての魅力もある。表面的に流して聴くのと、歌詞の「含み」を理解して聴くのとでは、印象が変わりそうな音楽。母国語さえおぼつかない私には、この音楽のストーリーやメッセージを完璧に理解できる日は来ないかもしれない。でも好きだ。
1曲目の「Horizonte」は孤独感はありつつも、視界は開けている。リフレインでは光る風を運んでくるようなストリングスが美しい。
続く「O Infinito」は、KIRINJIが好きな人がグッと来そうなグルーヴ。跳ねるピアノとストリングス、それに不穏なシンセサイザーの音色が、疾走感のある曲のテンションを高めている。アグレッシブな演奏のなか、ひとり浮遊感のあるギターが味わい深いコントラスト。
「Deixar para trás」や「Formiga」はブラスのアンサンブルが刺激的。ジャズファンク調の演奏も、「ここではない どこか」を目指す内容の歌詞も、ドライブ感があってかっこいい。
「Férias no Japão」はネオ・シティポップが好きな人にしっくり来るかも。洗練されたスムースな演奏。聴いていると、だんだん夜風を受けながら散歩したくなる。
個人的に、ポルトガルには日本の人にしっくりくる音楽がたくさんあると感じている。このアルバムも。色褪せない、まさにエターナルなアルバムだと思う。ポルトガルの音楽、色んな人にたくさん聴いてほしい。まずはここから。